ちょっと今から仕事やめてくる
※ネタバレもありますので、ご注意ください。
今や働く環境の改善よりも急務なのは健康への取組み、それもメンタルヘルスへの取組みだ。
日経ビジネスオンライン6月15日付の記事によると、
「6人に1人が「社内うつ」の現実
というタイトルがあり、
仕事が原因で心を病む人が後を絶たない。「社内うつ」。そんな言葉で呼ばれ始めている。社内うつは最悪の場合、病死や自殺といった事態を引き起こす。
精神障害における労災請求数は2013年、過去最高の1409件となった。一向に改善されない過労死や過労自殺を背景にして、厚生労働省は昨年6月、企業に「ストレスチェック制度」を義務付ける労働安全衛生法の一部を改正した。
とある。
恐らく今に始まったことではなくて、会社や仕事におけるストレスは以前からあったのが、過労とうつ・自殺の関係など、社会への認知・注目度が高まったことにより、表面化することが多くなったのだと思う。
自殺は遠い世界の話ではない。
身近で自殺した人を知らないというのであれば、その人は幸せで、かなり稀有な環境にいるのだと思う。
実際私も身近で自殺した人を知っている。
だからこの小説の主人公が置かれている状況も、他人ごとではないと感じる人が多いと思う。
でも、普通とちょっと違うのは「ヤマモト」の存在だ。
突然現れた「ヤマモト」は、果たして主人公の知っている「ヤマモト」なのか。
そうでなければ一体誰なのか。
「ヤマモト」はいつも主人公を気にかけてくれる。心配してくれる。誘ってくれる。
メールをくれる。電話をくれる。
仕事より大切なものがあると教えてくれる。
「人生は誰のためにあるのか」を教えてくれる。
大切なものに気がつかなくなるくらい追い込まれてしまったとき、寄り添ってくれる人がいるというのは本当にありがたいことだと思う。
主人公が立ち直れたのは、「ヤマモト」があの時以来、いつも側にいてくれたこと、仕事が全てじゃないことと、自分は自分以外の誰のために生きているのかということを根気強く教えてくれたからだ。
辛いときは逃げることも大切。
けれど、辛くて周りが見えなくなってしまっているとき、頑張らないとという思いで頭が体が硬直してしまっているとき、それに周りが気づいてあげることもとても大切だ。
そして、自分を気にかけてくれる人がいるということを忘れてはならない。
自分をこの世に送り出してくれた両親をはじめ、多くの人々。
気にかけてくれることが当たり前になっていて、自分が多くのモノを与えてもらっていることに気がつかないが、ちょっと立ち止まって考えると、それが当たり前なんかではないことに気付く。
本当に大切なものは何なのか、自分はどうしてこの世界に存在していられるのか を、じっくりと考えてみたくなる本だ。
仕事が原因による自殺願望という重くなりがちなテーマだけれど、ミステリーの要素が加わっていて読みやすい。
気軽に手に取って読んでみて、今の自分は無理していないかと問いかけるきっかけになればいいと思う。