諦観の雰囲気を漂わせつつも、深く考えさせられる『失踪日記2 アル中病棟』がいい。
吾妻ひでおといえば、『失踪日記』が日本漫画家協会賞大賞などを取ったことで有名ですよね。
私はこういうエッセイ漫画のようなものが好きなのですが、こういうアウトロー的な内容の漫画が多くの人に受け入れられたのは意外でした。
自分が体験したことがないことを疑似体験したいという思いは誰しも同じなのかなと感じます。
今回の『失踪日記2 アル中病棟』は、前作の『失踪日記』よりページ数も増え、ボリュームアップしています。
前作では転落していく過程、苦しみながらも自分の意志では制御できない状態を描いていたのに対し、今作は社会復帰していくための一歩を踏み出していく様子を描いていく作品になっています。
そして、『失踪日記』は事実を淡々と描いているのに対し、こちらの作品は作者がその時々にどう感じていたかということが詳しく書かれ、メッセージ性(作者の思い)が強いと感じました。
緻密に書きこまれた一コマ一コマからも、それを感じられたような気がします。
さて、いきなり踏み込んだ内容なのですが、依存症脱却のプログラミングで重要な役割をもつ自助グループというものに対し、それなりの効果はあるのだろうけど、私は少し不気味さも感じました。
ある集団独自のルールが定められていて、それに皆が従っている様を見たとき、集団の美だと感じる場合と、何となく落ち着かない・ざわざわした気持ちを抱く場合があります。
この漫画を通して感じたのは、まさに後半のような気持ちですが、作者の主観によるものも大きいと思うので、ここで決めつけてしまうのもよくないのかもしれません。
作者は基本的にとても真面目で几帳面で勉強熱心で責任感も強い人だということが、絵の描き方や様々なエピソードから窺いしれます。
このような依存症に陥ってしまう人は、基本的に真面目な人が多いというようなことを聞きますが、まさにその通りなのだと感じました。
ただ作者は真面目一本やりというわけでもなく、軽くルールを破ることもあるようです。
それでもこのようになってしまったのは、周りからの期待に応えようと過度に頑張り過ぎた・空気を読みすぎてその重圧に耐えきれなくなってドロップアウトしてしまったのだということが伝わってきました。
ではそのようなタイプの人が何らかの依存症に陥ってしまわないためにはどうすればいいのか。また依存からの脱却の為にするべきことは何なのか。
一つには先にも挙げた自助グループがあると思います。
私はちょっとした不気味さを感じる部分もあるのですが、一定の効果があるからこそ活動が続けられているのだと思うし、日常と同じ感覚で考えること自体が誤りなのかもしれません。
次に家族の存在です。
家族の協力なしにこの病は治せないといいます。
しかし家族は被害者ともいえる訳で、自己管理ができず問題行動を起こした者を、家族なのだから受け入れ支えていこうという前向きな気持ちに皆が皆なれるかといえば、そうではないと思います。
とにかく何かおかしいと感じた時点で、できるだけ早くこのような施設に入所するのが、本人にも家族にも一番なのだろうと思います。
認めたくないことを事実として受け入れる。
その上で改善するための努力を全力でするべきなのでしょう。
(と、言うのは簡単ですが、嫌な部分を認めるということは私には到底できそうにありません。)
依存症を完全に治すのは難しいようです。
依存しなかったという1日をひたすら毎日積み重ねていく努力をし続けなければならないといいます。
それはとても気の遠くなる作業です…。
この本は昨今増えているという「依存症」と、そこからの脱却について詳しくわかりやすく書かれていますが、5年も前に発行された(書き始めたのはさらに数年遡るようです)ということが驚きです。
例えば「依存症からの脱却という手記」という手法であったなら、固いし暗くなりがちな内容になりそうですが、作者の画風により、メッセージ性が強いのにも関わらずどこかあっけらかんとした感じがあって、読みやすくなっています。
登場人物のキャラクター設定がしっかりしているところも(実在の人物なのだと思いますが)、読みやすさに一役買っているのではないでしょうか。
女の子もかわいいですし(・´з`・)
他の作品も是非読んでみたいと思ったし、その後の吾妻氏がどのように過ごされているのか知りたいと思わずにはいられなくなるような求心力をもつ作品でした。