悲しみの底で猫が教えてくれた大切なこと
- 作者: 瀧森古都,Noritake
- 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
- 発売日: 2015/04/25
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (1件) を見る
▶猫、死と生、絆
東日本大震災直後、注目された言葉が “絆” だった。
多くの人が突然発生した災害(天災・人災含め)によって、今当たり前にあるものの大切さ、また家族や自分が関わってきた人々との絆について考えさせられた。
この小説のクライマックスの舞台は福島だ。
筆者は意図的に、絆の物語を紡ぐのに象徴的と言えるこの地を舞台に選んだのだと思う。
4話から成る物語を、それぞれスタートさせる引き金となっているのは、タイトル通り「猫」だ。
猫と関わっている間に、図らずも自分の内面と向き合うこととなる主人公たち。
そして、一見明るく見える登場人物たちとは裏腹に、いつもまとわりつくように存在しているのは ”死のにおい” だ。
作中に出てくる、
『何のために生きてるんだ?』
という言葉。
この問いに対して自問自答し、答えが見つからず苦しんでいる人はきっと多い。
ここには、月並みだが、何とかして自分の生きる理由をみつけ、自分がいてもいいのだと、自分の存在を認められるようになるまでの心の葛藤が描かれている。
自分の持つ心の “ひっかかり” に蓋をしたり、目をそらしたり、なかったことにしていては、結局その“ひっかかり”から逃れることができない。
辛くてもそれと正面から向き合い、受け入れることが、その呪縛から逃れることのできる唯一の方法ではないか。
登場人物たちは、思いもよらないところで繋がっていた。
主人公は、
『今を精一杯生きることで、僕らは奇跡を起こすことができるんだ』
と言った。
でも私は、それは奇跡ではないと思う。
自分の内面とばかり向き合っていては、人の悲しみや苦しみは理解できない。
自分以外の誰かの心に寄り添えたとき、人は成長し、強く優しくなれるのだろう。
そしてそれが「奇跡」に見える何かを引き寄せる力になるのかもしれない。
"死のにおい" の散りばめられた物語から、
「何のために生きるのか」を自問自答するのではなく、
「懸命に生きること」そのものの素晴らしさを感じることができた。