匿名者のためのスピカ
綺麗な表紙絵とタイトルに魅かれて手に取った。
キラキラとした青春ストーリーかと思い読み始めたのだけど、思いがけない方向へ物語は進む。
家庭という言葉にひとくくりにするのがためらわれるほど、一見幸せそうな家庭も何かしらの問題を抱えているものだ。
十数年前だったら、「そんなことが現実にあるの?」と驚かれるような事件や家庭の事情の数々も、今や「そういうことも身近に起こり得るのだ。」という認識に変わってきているような気がする。
だからこの物語で起こることはそれほど突飛ではない。
それでも、魅力的な登場人物とミステリー的要素のおかげで、一気に読み終えた。
“私が欲しかったのは完璧な愛情でした。”
“程度の差はあれど、どこかに連れ去ってほしいと願っているのが女性なんです。”
“(愛情が)足りなくて飢えていて救いを求めている”
“「俺たちは、なんのために、なんの権限があって、人を裁くのかな」中略「~終わったという区切りをつけないと、僕たちはいつまでも過去の中です」
こんな印象的な言葉の数々に、自分の弱い部分、都合のいいように解釈してしまうところをさらけ出されてしまったようでハッとした。
そしてなぜ人が人を裁かなければならないのかという、あまりに大きなテーマについて、1つの解答例が示されたのに驚いた。
そこまで踏み込んでいくような小説だとは思っていなかったから。
その答えはとてもシンプルだったけれど、そういうものなのかと、初めて、裁判制度の存在する意味を少しだけ理解できた言葉だった。
寂しさは人を狂わせてしまうことがある。
満たされている間は、自分が満たされていることに気がつかない。
だからふと寂しさに気づいたとき、その感情をどう扱えばいいのか分からない。
内にこもることもあり、他者に対して攻撃的になることもある。
寂しいという感情はきっと一番根が深く、複雑だ。
寂しいという感情は時に恐ろしい。
寂しいという感情をどう昇華させるか。
1人では生きていけない人間の永遠のテーマだと思う。